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◇おまけ





「そういえばマリアンヌは? あの子はこの時間じゃ寝ていないでしょう?」
 完全に部下の性格と生活習慣を把握しているロドリグの問いかけに、アルドは大丈夫ですよとあっさり返答する。
「ちゃんと全部話して許可を貰ってから来ましたから。その代わり明日は一日中お嬢様にお付き合いするんですけどね」
 変わりに、と言うわりに随分嬉しそうなアルドにロドリグは軽い好奇心を駆られる。
「―――不躾ですが、もしかして恋愛関係ですか?」
 真顔で聞くと、アルドは軽く笑った。
「あはは。そんなんじゃありませんよ。確かにお嬢様のことは大好きですけど、恋愛感情とはちょっと違うと思います」
 それはお嬢様も同じだと思いますよ。そう言われ、ロドリグは少しからかいたい衝動に襲われる。そして、駄目だと思いつつ言ってしまった。
「じゃあもしマリアンヌに恋人が出来たら?」
「試します」
 一瞬の間も無く寄越された返答は妙な迫力を伴っていた。これは地雷だったかと、ロドリグはやはり慣れないことはするべきでないと激しく後悔する。
「どんな相手であろうが私が試します。真面目だ誠実だ言って本当にお嬢様を愛してるかなんて分からないんですからね。ええそうですよ、お金目当てかもしれないじゃないですか。そんな輩にお嬢様は渡しません。まず私のこの容姿で誑(たぶら)かすでしょう? そして引っかかったら身ぐるみ剥いでその辺りに捨ててきます。引っかからなかったら今度はソフィアさんと協力してあれを試して――――ふふふふふ」
 立ち上がるやこちらが口を挟むまもなく矢継ぎ早に独り言の様に語り出すミリアルド。いやミリー。最後の辺りはもう目が正気じゃない。
「ご安心くださいマリアンヌお嬢様!! お嬢様の幸せはこのミリーがお守りいたしますわーーー!!!」
 必ずやお嬢様にぴったりのお相手をーー!!
 と大絶叫するその姿。もう完全にミリアルドではなくミリー・グッドナイトだ。
 夜中ですと宥めるロドリグ。余程彼女が大切なのだなと考えながら、それにしてもこの変わり様は異状なのではとも嫌な予感に背中を冷やす。
 その時、スゥ、と香ってきた匂いに眉をしかめる。この匂いは……アルコール。しかも飲料用の。どうやらミリーからだ。
「――――アルドさん……」
「ミリーですぅぅ」
―――完全に酔っている。ロドリグはこめかみをもんで再度呼びかけなおす。
「ミリーさん、お酒飲みました?」
「いいえぇ。パンダさんから頂いた木の実でしたら先ほどお嬢様と頂きましたけどぉ」
 パンダ・木の実、と来て、ロドリグは十中八九それだと確信した。
パンダの故郷の付近にしかない植物がある。その木の実には多量のアルコール成分が含まれているのだ。しかし酔いの症状が発現するのが遅いため、酒より厄介な代物である。以前パンダがそれを船員に配ったために大変なことになり、それは二度と送ってもらわないようにと警告したというのに――――。
 ロドリグは騒ぐミリーを押さえ、どこからか聞こえてくる騒ぎを聞きながら、背中に怒りを背負う。





 翌日、ロドリグに呼び出されたパンダは健康診断と称して図太い針の注射をされたらしい。(※注・中身はブドウ糖。人体に害はありません)
 どうやら昔日ミリアルドがそうあるべきだと諭した通り、ロドリグは優しいだけの医者にはならなかったようだ――――。





「ぷぎーーーーーーーーー!!!」





 合掌。














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