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◇おまけ

 

 とある街道で、夜の帳の中をエンジン音を響かせ走る1台のバイクがあった。運転しているのは褐色の肌の中肉中背の男で、サイドカーには金の髪をなびかせる青年が座っている。


「次の宿はもうちょい先だな。もちっと待ってなサイラス」


 豪快な笑い声を立てる男に、青年――――サイラスはともすれば風に掻き消えそうな小さな声で了解を口にした。男は慣れているのか気にした様子もない。


「……パンダ、ラジオつけるよ」


 サイドカー側のバイク側面にくくりつけているラジオに手を伸ばしたサイラスは返事を聞く前にラジオのスイッチを入れる。最初に聞こえたのは砂嵐だが、少し調整するとすぐに音楽が聞こえてきた。それは懐かしいクリスマスソング。サイラスは子供の頃一番大好きだった人がよく歌ってくれた懐かしいそれに目を細める。思い浮かぶのは、もちろんその人の姿。


 すっかり日付感覚のなくなっていたパンダと呼ばれた男は「おお」と声を上げる。


「もうそんな時期か。早いもんだねぃ。ってか今日か! 旅してると感覚狂っていけねぇや」


「そうだね。……パンダ?」


 毛布を被った膝を抱えるサイラスは呼びかけに答えたパンダに小さく尋ねた。


「これ、歌ってていい?」


「お? 珍しいな。おー、いいぜいいぜ。歌ってろぃ」


「……ありがと」


 礼を述べ、サイラスは口ずさむ。懐かしさと愛しさをたくさん詰め込んだ、優しいクリスマスソングを。


 パンダはアクセルを捻ってバイクを操る。


 友の口ずさむ、クリスマスソングを聴きながら。





 










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